東京・芝公園『クレッセント』に行ってきました。

こんにちは、メゾン・ブレイズです。

コロナ禍以降ずっと遠出らしい遠出は控え、今年の夏はお店のお惣菜を活用したキャンプを試したりしていました。

「新しい生活様式」の中で、いかに食事を楽しむべきか提案せねばならんと考えていましたしね。

が、そんな店主の元にとある一報が入ります。
これを読んだ店主、急遽東京へと飛ぶことにしました。

一泊二日、東京には24時間も滞在しないという弾丸旅程。
何故そこまでして旅を強行せねばならなかったのか。

ちと長くなりますが、楽しく読めるよう文章に起こしてみました。
是非ご覧ください。

【 1947年創業、東京のフランス料理の興亡を見つめてきたグランメゾン 】

東京には様々なグランメゾン(和製フランス語。一般にはドレスコードが存在するような高級フランス料理店を指す)があり、どのお店も個性的で美味しい料理を提供していますが、その中でも建物の風格、お店の歴史共に頭一つ抜けているのが東京芝公園にある「クレッセント」です。

銀座の「レカン」、資生堂が経営する「ロオジエ」、故高橋徳男シェフが全盛時代をもたらした「アピシウス」、誰もが知っているであろう「ジョエル・ロブション」、道産子ならみなさんご存知、三國シェフの「オテル・ド・ミクニ」など、東京には綺羅星のごとくグランメゾンが存在しますし、店主も片っ端から網羅していくつもり満々でした。

しかし、それら数あるグランメゾンの中でも「クレッセント」は別格と言いますか、東京のフランス料理店の興亡を見続けてきたといっていい、長い歴史を備えたお店なんですね。

まず、戦火の傷痕も生々しい1947年の秋、石黒孝次郎氏が古美術商「三日月」をオープンします。

この時はまだ東京タワーも建っておらず、「三日月」の店舗もまだ木造スレート葺き、平屋の館でした。

続く1957年には、お客様をもてなすためのフランス料理を出すため館を増改築し「レストラン・クレッセント (「クレッセントハウス」とも呼ばれていたそうです)」としてオープン。

この頃この店をご贔屓にしていたのは吉田茂首相や白洲次郎氏など。渡欧経験のある政財界の方々が多かったそうです。

また「フランス料理といえばホテルのダイニング」という時代でしたので、街場のレストランがフランス料理を出すこと自体非常に珍しいことでした。

そして1967年、創業20年という記念の年に、美術商とレストランを共同で営むため、新たな建物の建築を開始。1968年7月25日、後期ヴィクトリア朝風の格調高い建築様式を採り入れた、地上5階・地下2階の英国風煉瓦造の洋館が完成します。

この時に初めて、唯一無二であり最上級であることを表す定冠詞「THE」が付けられ、「THE CRESCENT」としての営業がスタートしました。

それからは王道を行くクラシックフレンチを提供しつつ、1980年に萩原健一さんといしだあゆみさんの結婚式を執り行うなど、その後大流行する「レストランウエディング」の先鞭をつけます。

先を読んだ経営方針で業界を牽引するクレッセントでしたが、1997年、現シェフである磯谷卓氏の就任で更に大きく飛躍。

フレディ・ジラルデ(三國シェフの師匠に当たる方です)の薫陶を受けたシェフの手腕で老舗「クレッセント 」の名声は更に大きく高まり、2000年代には見事ミシュランの星も獲得。今に至っています。

とまぁ、ここまでが前段です。

店主の中でも、「クレッセント」は東京屈指の歴史と風格を持つ、そして間違いない美味を堪能できるであろう「いつか行ってみたいレストラン」として記憶に刻まれていました。

そしてコロナ禍の最中でも、クレッセントはフランス料理店の中で最も早いと言っていいタイミングで一時休業を宣言。

店主も「おぉ〜歴史あるとこは流石に判断が早いな」とある意味「のんき」に見ていました。

この時はまさか、クレッセントが今年の10月末に閉店するなどと思ってもいませんでしたから。

………そう、自分がFacebookで見た最新のクレッセントの投稿には、今年の10月末で閉店する旨と、現オーナーやスタッフの方の集合写真が掲載されていたんです。

【 今行かないともう行けない 】

この記事のはじめに記載した通り、東京には沢山のグランメゾンがあります。何十年も営業しているお店も勿論あります。

しかし、クレッセントほどの歴史と風格を持つお店は日本だと流石に少ないですし、都内で、かつ築60年を超えるような洋館で営業を続けているフランス料理店となると、クレッセントを除けば皆無と言ってもいいでしょう。

つまり、10月30日までに行かないと、もうこの歴史に触れることはできなくなってしまうわけです。

…これは行かねば、と思いました。

今はこの状況ですし、迷わなかったと言えば嘘になります。
が、端くれとはいえフランス料理に携わっている身として、ここに行かずに済ませるのはあり得ないなと。

そう覚悟を決め、その場で電話をかけてみるも全く繋がりません。

…そりゃそうです。
昔からこのお店に通っている方は星の数ほどいるでしょうし、クレッセントで結婚式を挙げた(これまた大勢いるであろう)ご夫婦も、今回の閉店には大きなショックを受けているはず。

ひたすらかけても全く繋がる気配が無かったのですが、諦めず断続的に電話をかけ続けていたところ急に呼び出しコール音が鳴りました!(思い出しながら書いていますが、それでも心拍数が上がりますね)

緊張を抑えつつ、まずは個室に空きがあるかを確認(料理や調度品に集中したいですし、クレッセントのメインダイニングでは写真撮影ができないため、最初から個室を狙っていました)。

その結果、9月20日であれば店主が以前から気になっていた「オールドクレッセントルーム」が空いているとのこと。

クレッセントの公式サイトより転載

ここは、クレッセントが1958年の増改築でレストランを始めた際、個室の一つとして使われていた屋根裏部屋です。1968年に洋館として生まれ変わった際、この部屋を吉田茂元総理が愛用されていたことから現在の洋館に移築されたという逸話が残されています。

また、クレッセント3階の個室は小さい子供を連れての入店がOK(!)なため、子供の年齢を伝えた上で席数が足りるか確認を取ってもらったところ、こちらもOKとのこと。

どのメニューになさるかは後程ご連絡頂ければ大丈夫です、とのことなので、とりあえず個室だけ確保してもらって電話を切りました。

ようやくホッと一息。ちなみに妻や子供達には完全な事後承諾となりましたが、快く受け入れてくれました。本当に感謝しています。

【 コロナ禍の下、東京へ 】

さて、無事にお店を予約できたので飛行機とホテルも予約します。
こちらはコロナ禍の影響もあってか、割とスムーズに完了。今回は行く場所が場所なので、食後に現実に戻らずに済むよう奮発して東京プリンスホテルを予約してました(笑)。

また、今回東京のグランメゾンに行く旨を義父にも伝えたところ、そんな立派な店に行くのであれば、私たちが子供を見ておくから二人で行ってきなさいと有難いお言葉。快く甘えさせて頂き、レストランにもその旨を伝えていざ出発。

女満別空港より人が少ないのでは…と感じてしまうような羽田空港で妻と合流し、ちょっと羨ましい話を聞きながら(機材変更で大型機に乗り替わることになった上、ビジネスクラスに案内されたそうです)大門駅へと到着。

駅名の由来でもある増上寺の総門をくぐり…

見えてくるのは東京タワー。

そのまま進んでいくと、右斜め前方に煉瓦造りの立派な洋館が見えてきました。「クレッセント」です。

まだ予約の時間までは2時間以上あるので、とりあえず正面に回って写真をパチリ。

(この写真↑は公式サイトからの転載です。)

ご覧の通り、行き交う人も思わず振り向いてしまう強烈なインパクトの建物です。通りがかった人が次々写真を撮っていました。

(余談ですが、静岡県に住んでいる店主の先輩も、東京観光をした際にこの建物が何なのかわからないまま写真だけは撮ったそうです)

我々の来店日には既に残りの全日程が予約で埋まってしまっていたため、この店に入ることができるのはこれが最初で最後。そもそも東京自体それほど頻繁に来るわけではないですから、じっくりと目に焼き付けておきました。

というわけで、お店を後にしまずはホテルへ。

カジュアル寄りとはいえドレスコードがあるお店なので、部屋で少しのんびりした後はきちんとした服装に着替えます。

部屋もベッドもデカかった…

ちなみに流石というべきでしょうか、フロントの方の応対はとても丁寧で心地よく、かつ親切でほっこり。1泊滞在とは思えないくらい癒されました(笑)。自然な笑顔で応対してくれるのは、短時間のやり取りでもなんだか嬉しくなりますよね。

【 東京タワーを背にいざ出発 】

予約時間の19時が近づいてきたので、東京タワーを背にいざ出発。

ちなみに「クレッセント」には東京タワーを眺めつつ食事を楽しめる個室もあるそうです。スカイツリーではなく、夜の東京タワーを眺めながらのディナーも楽しいでしょうね。

おぉ、夜になるとまたいい雰囲気。

ワクワクしながらドアを開けて、エントランスへ。洋館なので当たり前といえば当たり前ですが、重厚感のある階段や調度品が出迎えてくれました。

場違いな感想なのは百も承知ですが、プレステ世代の店主にはつい「バイオハザード1」に出てきた洋館が思い出されてしまいます(笑)。

左に見える螺旋階段は「クレッセント」が誇る地下のバーへ向かうためのもの。新型コロナウイルスの影響でバーはオープンしていなかったのですが、お店の方のご厚意で案内して頂くことができましたのでこの記事の最後の方で紹介しますね。

あと、1階には立派なソファを多数備えたウェイティングルームも別にあり、早めに到着していたらお茶を楽しみながら定刻を待つこともできたそうです。う~ん、そちらも堪能してみたかった。

そんなこんなで、若干後ろ髪を引かれながら3階へ。

その途中にもあちらこちらに由緒ありそうな(実際由緒ありまくりなんですが)銀器やオブジェが飾られていてついキョロキョロ(笑)。

こちらが館内の様子に興味津々なのに気付いてくれたのか、サービスの方も「こちらは4階のチャペルへ向かうための階段です。撮影スポットですよ」とわざわざ教えてくれました(笑)。

【 オールドクレッセントルームにて 】

そしてようやく到着したのがこちら。

「オールドクレッセントルーム」です。

利用できるのは4名までという小さな個室なのですが、明るすぎず暗すぎずの照度でとても落ち着く空間となっています。確かにこれは、政治家の方がゆっくり相談するのに向いてそうな雰囲気。

1958年の増改築時に作られた部屋であることを示すためか、入口には昔のクレッセントハウスの絵が。

(マスクの直置きは気が引けるので)ホテルからティッシュを持ってきていたのですが、予めマスクケースが用意されているという流石の気遣い。

美しい位置皿はノリタケの特注品とのこと。

シンプルながらも美しいカトラリー。
アミューズ用の小さなフォークとスプーンは閑院宮家から譲渡されたものらしいです。うーむ、書くことが多すぎる(笑)。

本日のメニュー。
今回はこの店の王道といえるメニューを楽しみたかったので、その名もずばり「CRESCENT」という名前のコースでお願いしました。

食前酒は店主がシェリー、妻がシャンパーニュで。

シェリーだけで4種類も!?これは嬉しい…!

30年以上熟成だそうで、フィノ(辛口のシェリーを指します)とは思えないくらい濃厚な色合い。味もこの色に負けず素晴らしい複雑さで強烈な旨味。これはグイグイ飲むのが勿体ないですね。

その傍ら、妻はシャンパーニュを注いでもらいニッコニコでした(笑)。
これまた、グラスで提供していいんだろうかというレベルの濃厚複雑なシャンパーニュで、きちんと銘柄を確認しておかなかったのが残念です。今までに飲んだことの無い、ちょっと熟成感のある味わいでした。すっきりさっぱりとは一線を画す感じです。

アミューズ・ブーシュは冷製のクロケット(コロッケ)に、ピスタチオを詰めてトマトソースをまぶしたグリーンオリーブ、そしてクリームチーズを挟んだ白エビのチップス。

一番普通かなーと思っていたピスタチオ詰めのグリーンオリーブが想像以上にマッチしてて、お酒が進みました(笑)。そしてカトラリーがまた美しい…

【 冷前菜1:トマトのコンプレッション 】

続いて冷たい前菜であり、磯谷シェフのスペシャリテでもある「トマトのコンプレッション」が登場です。

これはまず見た目が可愛い。面白四角トマトです(笑)。

ちなみにこの面白四角トマトにはサイズの異なる2種類のトマトが使われています。外側は大きめのトマトを花弁状に切り出し、オーブンで加熱してセミドライにしたものを貼り合わせて使用。

そしてその中にはフルーツトマトのムース、フルーツトマトのタルタル、そして先ほどセミドライにしたトマトの種部分から透明なコンソメを引き、ゼリーにしたものが入っています。

つまり、トマトを分解・再構築したにもかかわらずやっぱりひたすらトマトなんですが、これがもう「トマト過ぎて美味い」んですよ。完全に馬鹿みたいな感想になってますが、これだけいじくってるのにトマトの魅力が失われるどころか、様々な触感と風味旨味が混ざり合って、新しい料理(新しいトマト?)として生まれ変わっているのは素直に凄いとしか言いようが無いです。

この小さな小さな前菜がスペシャリテということで、勿論我々も期待して行っているわけですが、その期待をはるかに超えて楽しく、美味しいお料理でした。これは人気が出るのもわかります。

あともう一つ、皆さんが気になっているであろうトマトの「ヘタ」ですが、これはバジルを使って作られているとのこと。予想外にカリッとした食感でこれまたいいアクセント。細部まで目が行き届いた素晴らしい前菜でした。

【 冷前菜2:オマールブルーのサラダ仕立て 】

冷たい前菜その2はオマール海老。フランス料理では定番の食材ですね。

身の部分はしっとりと火を通して、イベリコ豚の生ハムと一緒にソース・マヨネーズ(といっても洋酒やハーブを利かせた、市販のマヨネーズとは別物のソースです)で。

そして細い爪の部分はムースにして、カリカリのパートブリック(春巻の皮のようなものが見えると思います)で包んであります。

大きい爪の部分はショーフロワ仕立て(ゼラチンの入ったソースでコーティングする、クラシックな冷製料理をショーフロワと言います)になっており、半身分のオマールを3種類もの調理法で頂くという贅沢な一品。

後ろにさりげなく添えられたクレソンも契約農家に作ってもらっているものらしく、市販のものより遥かに柔らかく上品な味わい。ソース・マヨネーズとの相性は言わずもがな、でした。

実を言うと店主は結構ショーフロワ仕立ての料理が好きで、地元レストランの方にもお願いして作ってもらったことがあります。

本当にクラシックな料理なので、今では出しているお店を探す方が難しいくらいなんですが…もし出しているお店があったとしたら、それは相当こだわりの強い方が経営されているお店だと思うので色々聞いてみてください。喜んで答えてくれると思います。

店主はこのしっとりとしたオマールの身とクレソン、生ハム、ソースを一緒に口に運び、すかさずシェリーをグイっとやりましたが………最高でした。
ブログを書いていてまた食べたくなってきました。

【 冷前菜3:フォアグラのエギュイエット 】

これぞ「ザ・クラシック」!!

ポール・ボキューズ、ジョエル・ロブションと並び三大シェフと称えられた「フレディ・ジラルデ」直系の料理です。

フォアグラは鵞鳥のものを使用し、上にはポルト酒のジュレ、間には柔らかく下処理したナッツとドライフルーツが挟まっています。フォアグラの質の良さは勿論なんですが、それ以上にこのジュレとナッツ、ドライフルーツがめちゃくちゃいい仕事をしていて、濃厚なフォアグラを軽やかに食べさせてくれます。

一緒に出してくれた温かいブリオッシュに乗せて…

アルザスの少し甘みのあるリースリングと合わせたらですね…

かーーーーーー!たまらん!!これはたまらんです!!!

妻はこの料理が殊の外気に入ったらしく、もうずっと話してました(笑)。
これ、同じ組み合わせでテリーヌとして再構成できないだろうか…本当、驚きの旨さだったので是非皆さんにも食べてもらいたいと思うんですが…

シンプルに作ったフォアグラのテリーヌも美味しいんですが、どうしても食べ飽きしてしまうんですよね。しかしこのお料理はフォアグラの良いところを存分に引き出しつつ、最後まで飽きることなく美味しく食べさせてくれます。

いや~美味かったですねこれは。
ブリオッシュ、ワインとの組み合わせも抜群でした。

【 赤ワインはボルドーをチョイス 】

続いて魚料理ですが、先に赤ワインを開けてデキャンタージュ(ワインをデキャンタに移し、空気に触れさせて香りを開かせる工程)してくれました。

今回選んだメインの料理が「和牛フィレ肉のロッシーニ クレッセントスタイル」だったんですが、フォアグラとトリュフをたっぷり使ったクラシックなお料理なので是非ボルドーと合わせたいなと思っていたんですよね。

なので、前から飲んでみたかった「シャトー・ピション・ロングヴィル・コンテス・ド・ラランド(長すぎる…)」を頼むことに。

で、この記事を書きながら、来店時に撮影したワインリストの写真を見返しているのですが………あるわあるわ掘り出し物が…

5大シャトーに関しては、古いヴィンテージだと市価よりかなり安く飲めるものがゾロゾロありました。自分の目は完全に節穴だと再確認(笑)。決め打ちしすぎてちゃんと値段見てなかったです。ダメダメでした。

そうだよなぁ…歴史あるお店は昔からワインを沢山仕入れているので、下手したら市価より安い値段でいいワインが飲めたりしちゃうんですよね。

ただ、そういうことを知っていても地元(北見周辺)だとワインリストを見ること自体殆ど無いので「うおーこれもある!」「あれもある!」みたいな感じでテンション上がっちゃって肝心なところを見落としちゃうわけですよ…

【 魚料理:舌平目と雲丹のボンヌ・ファム 】

そんな店主の失敗談(とはいえ、今回頂いたピション・ラランドも勿論美味しかったです)の後は魚料理が登場。

「舌平目と雲丹のボンヌ・ファム」です。
ボンヌ・ファムとは「おかみさんの手料理風」のような意味合いで、家庭的な料理・田舎風の料理を指すことが多いです。

これは舌平目を5枚下ろしにして身の部分2枚を重ね、上の身にのみ切れ目を入れて雲丹を載せ、ソースを注いで焼くという、グラタン的な作り方の料理でしょうか。

ちなみに北海道では舌平目が獲れないので、店主は舌平目自体が初体験。
いったいどんな味なのかと一口頂いてみたら「味が濃い!!!」の一言。

白身魚だし、こんなに魚単独で味が濃いとは思ってもいなかったんですよね。その上、雲丹も乗っかってるので別種の旨味がプラスされ、更に魚の出汁とクリームのソースで倍率ドンですよ。こりゃーパワフル。

おまけにケシの実が付いたクロワッサンも供され、魚やソースと一緒に食べたらこれまた酒が止まりません(笑)。フォアグラの時に頼んだリースリングはあっという間に無くなり、酔っ払い過ぎないように頼んでおいた炭酸水(スペインのヴィッチーカタラン)もグイグイ飲んでしまいました。

これ、オーブンかサラマンダー(上火だけを当てることができる、業務用の調理器具)でソースもこんがりさせてるので香ばしさも加わって、まさに旨味祭りといった様相。

ホロホロとした舌平目の身はソースとも良く絡み、最高の味わい。もう少しお酒が強かったらこの料理のためだけにワインをもう1杯頼みたい…と思ってしまいました。

【 メイン:和牛フィレ肉のロッシーニ クレッセントスタイル 】

そしてメインは「ロッシーニ」。フランス料理王道中の王道です。

セニャン(中心がピンク色)に焼き上げられた牛フィレとこんがりソテーされたフォアグラ、そしてたっぷりのトリュフを、フォン・ド・ヴォー(仔牛の出汁)と甘みのあるマデラ酒、みじん切りのトリュフを合わせた「ソース・ペリグー」で頂くという「ザ・高級料理」です。

あまりに有名過ぎて「俺のフレンチ」の目玉料理になったり、北見でもロッシーニを食べられるお店が増えるなどしていますが、店主は折角なので老舗中の老舗である「クレッセント」でロッシーニを味わってみたかったんですよね。

ということでドドンと。
まず牛フィレの質自体がめちゃくちゃ良くてビビります。ロッシーニはコース料金プラス5,000円で食べられるようになっているんですが、これだけ品質の良いフィレだと肉の原価だけで5,000円近くいくような…

また店主はヒグマから野ウサギに至るまで、大小様々なジビエを扱っているのでわかるのですが、基本的に肉の滑らかさ、繊維の太さ柔らかさはその動物の「サイズ」に準じます。

どれだけ年を取っていても野うさぎの肉は基本的に柔らかくしっとりしていますし、一方でヒグマの肉は小ぶりな個体でもかなり繊維が太く硬いです。

なので、その理屈でいくと牛の場合フィレ肉とはいえここまで滑らか、しっとりというわけにはいかないと思うんですよ。

しかしこのフィレは、超がつく高級鉄板焼き店が仕入れるような肉を使っているとしか思えないくらい、しっとりしていて滑らかでした。スジっぽさなど微塵も感じず、でも噛み締めると最後はサクリとした心地よい食感。おまけにご覧の通り、最高の火入れです。

この肉にフォアグラとトリュフを載せて、甘みと旨味たっぷりのソースを付けて頂くんですから………不味いわけがありません。

トリュフはまだ時期でないということもあって香りは穏やかでしたが、逆にそれが功を奏して、料理全体としての一体感を生み出していました。これは旨い…

ソースも塩を利かせるのではなく、フォンドヴォーの旨味とマデラの甘みを前面に押し出した構成で、肉、フォアグラ、トリュフを優しく包み込むような存在になっています。もうひたすら赤ワインが進みまくります(笑)。

デキャンタージュしてくれたピション・ラランドも、単独で飲んだ時はまだ若さ・粗さを感じましたが、このソース&肉と合わせると驚くほどマッチしてくれました。1杯ずつ飲んで後はお持たせにしてもらう予定がついグビグビと(笑)。

(ちなみに今回全くテイスティングコメントらしいことを書いていませんが、スマホにはしっかり飲んだ当時の印象を書き留めていますので、持ち帰って改めて飲んだ時の印象と合わせてまた別記事で紹介しようと思います)

付け合わせはセップ(ポルチーニ)のソテーとササゲ、ジロール茸。
ササゲは驚くほど鮮やかな緑で、さりげなく散らされた四角い小片は人参でした。決して派手な味ではありませんが、丁寧に作られたいい付け合わせです。

あぁ、書いていたらまた食べたくなってきました(笑)。
こういう超高級料理って、原価やロスした時のダメージを考えるとなかなか地方では提供することができないんですよね。高いとどうしても頼む人が少なくなってしまいますから。

なので、今回わざわざ東京まで行って食べてみて、本当に良かったと思っています。フランス料理の神髄のようなものをしっかりと感じることができました。

こういった幸せな体験を、当店を通して皆さんにも楽しんでもらえたらと心から思います。それが需要となり、ひいては街の発展にも繋がると思いますから。

【 フロマージュ(チーズ)とデセール 】

メインを食べた後もまだワインは十分に残っていたので、チーズも頂くことに。

ご覧の通り、凄い種類です(笑)。ハード系が2種類、山羊乳が3種類、ウォッシュが2種類、白カビ3種類、青カビ2種類とより取り見取り。

本当は全部食べたかったところですが流石にお腹が一杯なので、3種類選んで頂くことにしました。

左からサントモール(山羊乳)、コンテ(ハード系)、ブリー(白カビ)です。

まず全体通して言えるのは「最高の熟成度合い」であること。まさに今が食べ頃という、素晴らしい味わいのチーズばかりでした。

もっちりねっちり、旨味たっぷりでありながら適度な酸味で食べ飽きさせないサントモール。妻はこれが大変気に入ってしまい、翌日銀座の地下にあるお店でまた食べていました。自分もまた食べたいです(笑)。

コンテはアミノ酸が結晶化しており、食べるとシャリシャリとするレベル。ワインとの相性は言わずもがな。折角なのでヴァン・ジョーヌを1杯頼めばよかったかもしれません(コンテはジュラ地方特産のチーズで、ヴァン・ジョーヌとの相性が抜群と言われています)。

ブリーも、お店で買うものとは全く違う、表皮が茶色く見えるほどしっかり熟成させたもの。個人的にはこれが一番衝撃でした。ブリーって割と初心者向けの白カビチーズな印象がありますが、熟成させるとこんなにもコクがでて美味しくなるのかと…。

妻はサントモールの最後の1片をすごく大事にしてて面白かったです(笑)。

当店でワインやシャルキュトリーを取り扱っている「マノワ」さんにもチーズプロフェッショナルの資格を持った方がいらっしゃるので、今度食事に行ったらチーズに関する話を詳しく聞かせてもらおうと思います。

そしてチーズと一緒にワインを楽しんだ後は、食後の飲み物とデセールです。
コーヒーとハーブティーを頼んだのですが、これまたどえらく美味いんですよ。

コーヒーに関してはどのようなものを使っているのか聞き忘れてしまったのですが、ハーブティー用のハーブに関しては、わざわざ青森県で栽培された生のものを取り寄せ、お店でカット・乾燥させて仕込んでいるそうです。タイミングが合えばフレッシュティーも飲めるのだとか。

簡単に書いてますが、毎日のお料理の仕込みをこなしながらハーブティーも自前で作るって、正直めちゃくちゃ大変だと思います。それこそおもてなしの心が無ければできないことですよ…。ありがたい限りです。

ワクワクしながら淹れてもらうと、部屋中に漂う鮮烈で爽やかな香り…!
ハーブはベルベーヌのようですが、こんなにも香りが鮮烈で、かつ美味しいものは初めてでした。

デセールは「フランボワーズ(木苺)とキャラメルアイスクリームのシュクセ」。

キャラメルアイスクリームの側面には香ばしく炒ったピスタチオ。その上下にはサクサクのメレンゲ。ソースはフランボワーズ(木苺)で、メレンゲの上にも大きくて身の厚い木苺が沢山。長野県伊那市のサンタベリーガーデンから取り寄せているそうです。

またデセールのカトラリーは三菱財閥の四代目総帥「岩崎小彌太」氏から譲渡されたものとのこと。御紋が「三菱」ではなく「四菱」になっているのは、自分が四代目だからという洒落を利かせてのことだそうです。

そんな由緒正しいカトラリーでメレンゲを割り、ソースに浸してからアイスクリームと木苺を載せて口に運ぶと…これまたたまりません(笑)。

ハーブティーの方が合うかな?と思っていたんですが、キャラメルアイスとコーヒーの相性も抜群で、ついお替りしてしまいました。非常に美味しいコーヒーだったので、これもどこのものを使っているのか聞いておけば良かったと今更ながら残念に思っています。

そしてプチフール(小菓子)は焼き立ての小さなマドレーヌ!これが、こんな小さいのに衝撃的に美味しかったです。ホッカホカなだけでなく香り・風味が抜群にいいんですよ。

クレッセントのウェブサイトにある「写真ギャラリー」でもこのマドレーヌと焼き型を見ることができるんですが、今はこういうごつい焼き型ってまず売ってないので、かなりの年代物だろうなぁ…と。

そしてデセールはまだ続きます。今度は「ジラルデ」のワゴンデザートで名物だった「タルト・ヴォードワーズ」が登場。スタッフの方はわかりやすく「練乳のタルト」と仰っていました。

とんでもなく濃厚な味わいなのにタルト部分は軽く、既にお腹一杯なのについつい食べ進めてしまうという摩訶不思議。これ、めちゃくちゃ美味しいので間に合うようであれば是非取り寄せて食べてみてください(凄まじい人気なのでもう残ってないかもですが…)。

奥に見えるのはフルーツ鬼灯(ほおずき)のゼリーとウイスキーボンボン、オランジェット(オレンジピールショコラ)。どんだけお菓子出てくるんじゃという感じですね(笑)。

もうこれ以上は流石に入らん…!となった頃に、サービスの方が「残りの小菓子は箱にお詰めしておきますね」と…。まだ出てないのがあったんですか(笑)。

小菓子の入った箱だけでなく、メニューやお店の紹介パンフレットも綺麗な封筒に入れて頂き、飲みきれなかったワインもきちんと封をした上で袋に入れ、倒れないよう両サイドをテープで処理して持たせてくれるという心遣い。本当に嬉しかったです。ご馳走様でした…。

【 他のお部屋とバーを見学 】

「もし良かったら他のお部屋もご覧になりませんか」とのことで、お隣の「ウッドペッカールーム」をちらっと見学。

これまた、なんとも落ち着く空間で素晴らしいんですよね。ソファもあるし、子供達もいる時はこちらのお部屋もゆっくりできて楽しめそうです。

ちなみに「ウッドペッカー」は「キツツキ」の意味なんですが、ロートアイアン(錬鉄)の手すりにデザインされた鳥はキツツキに見えませんでした(笑)。

そして店主がどうしても見てみたかった、地下のバーも見せて頂くことができました。コロナ禍の影響でオープンできず、食後に利用することができなかったんですよね…。

この機会を逃したらもう見ることはできないだろうなと思い、お願いして案内してもらいました。

「GROTTO BAR(洞窟のバー)」と名付けられており、その名の通り地下に掘られた洞窟のような雰囲気。

以前はバー単独での営業もしており、地上にある階段からこちらのバーに直接降りてくることもできたそうです。ただ、あまりに居心地が良すぎてレストランの営業に支障をきたすほどお客様が入ってしまい、泣く泣く閉めざるを得なかったとか。

ご覧の通り、めちゃくちゃ落ち着く空間が広がっています。

カウンター内に設けられた作り付けの棚は、50年以上の歴史がもたらす重厚さ。今はこういう骨太な家具、ヨーロッパに行かないと見られないでしょうね…。

大昔のマデイラも普通に置いてあって、後ろ髪引かれます(笑)。
いつかまた来たいと思っても、もう来月末で終わりなんですよね。無念…。

ちなみに、サービスの方に聞いたのですが、次の買い手は決まっているらしく、この建物は恐らく取り壊され、マンションが建つのではないかとのこと。

マジですか…。この歴史ある建物を潰してマンションとな…。

確かにここは駅から至近で空港へのアクセスも抜群、区役所は道路を挟んで隣にあり、東京タワーが目の前という「超」一等地です。

普通に考えたら、客が回転しないと儲からないレストラン業を辞めマンションを建ててしまうのが(安全にお金を稼ぐという意味では)妥当な判断かと思います。

しかし…。おセンチかもしれませんがあまりに勿体無いなと…。
このお店はフランス料理というカテゴリだけでなく、戦後から続く日本の歴史をずっと見続けてきたいわば「歴史の証人」なわけですからね…。

何とか維持できないものだろうかと(外野ながら)心を痛めていますが、個人でどうこうなるような話でもないので、難しい…

また、お店の皆さんは最後まで最高のサービスを提供しようと決意を固められているようで、閉店の無念さなどおくびにも出すことなく、気持ちの良い素晴らしい接客をしてくれました。

お料理や建物、調度品は勿論、支えるスタッフの方々もまさに一流と呼ぶに相応しい、最高のお店でした。この状況下ですが本当に来て良かったなと。

玄関先で磯谷シェフやスタッフの皆さんと少し立ち話をして、見送られながらお店を後にしましたが(記念写真も撮ってくれました)、すぐホテルの部屋に戻るのはちょっと寂しく感じたので、妻と二人で東京タワーを眺めながら散歩しつつホテルへと戻りました。

【 最後に 】

翌日、頂いた箱を開けてみると、ご覧の通り色々な小菓子が入っていました。

マカロン2種にドライフルーツ入りのパウンドケーキ、バラの香りのマシュマロ、パート・ド・フリュイ、アーモンドショコラ、小さなファーブルトン(かな?)などなど…

一緒に頂いた小雑誌を読みながらコーヒーと一緒に頂きましたが、まさに至福のひと時。

本当はこんなに弾丸ではなく、もっとゆっくりと色々回って観光もしたいところですが、この状況下ではそれも難しく…。お店で使えそうなパンを買ったり、飛行機の時間が近づくまでワインの試飲などをしてから帰ることにしました。

というわけで、短い滞在でしたが本当にいい経験ができました。
こういう素晴らしいお店のエッセンスを少しでも吸収して、地元でもフランス料理の魅力をお客様に体験して頂けるよう頑張ろうと思います。

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