こんばんは。メゾン・ブレイズです。
今年の1月半ばに修理に出したカトラリーがようやく戻ってきました。修理だけで半年かかったことになります。長かった…
これまでずっと修理中だったのでサブのカトラリーを使っていましたが、今日のディナーからはようやく出張ってもらえます。
ちなみに当店のカトラリーは明治44年に十一屋商店より洋食器の製造依頼を受け、日本最古の西洋洋食器メーカーとして産声をあげた「燕物産(当時は捧吉右衛門商店)」の大正後期~昭和初期のアンティーク品です。
最近だとTBSドラマ「天皇の料理番」にも登場していましたが、燕物産のカトラリーは「Laurel 月桂樹」というモデルが特に有名で、これは東京における西洋料理店の草分けである「上野精養軒」より大正9年の結婚式場開設に合わせて発注されたものと言われています。
今でも上野精養軒ではこの「月桂樹」が使われているのですが、燕物産の初期のカトラリーには、大正から昭和にかけて古い型が5種類、「千草」「唐草」「月桂樹」「昭和型」「銀座型」と存在し、当店で使用しているのはこの「銀座型」となります。
燕物産で現在も製造しているのは「月桂樹」のみで既に他のモデルは喪われているため、修理の際のやり取りで社長さんが「実家の土蔵にある品以外で銀座型を初めて見た」と仰っていました。
修理依頼時、燕物産の捧社長から頂いたメールには
「
この昭和洋食器は、私の自宅の土蔵に昭和初期から保管されており、燕市産業史料館に展示されています。他には存在していないと思います。貴重な歴史の洋食器です。今日まで綺麗に保残していただき心より感謝を申し上げます。
」
と記されており、かつ産業資料館に今も展示されているのは当時数多く生産された「月桂樹」とのことでした。
当店のカトラリーである「銀座型」に関しては、2013年12月6日~23日に開催された「百年企業シリーズ 燕物産株式会社展」で展示されたのが数少ない人の目に触れる機会だったそうです。
またホローハンドル(中空の柄)部分は金型でプレスしたものですが、フィッシュナイフの刀先及びフィッシュフォークの頭部に刻まれた模様は全て当時の職人の手彫りだそうです。
職人の高齢化と後継者不足で技術の継承も劣化傾向にあり、現在同じ事をやろうとしても難しいと思いますとのことでした。
とまぁ、蘊蓄はこの辺にしておきまして…
このお店を始めるにあたり、お皿はともかくカトラリーは悩みのタネでした。
というのも、最初はオーソドックスにクリストフル(フランスの有名なカトラリーブランドです)を考えていたのですが、そもそも当店の場合、客室が「茶室」なわけで…。
フランス料理を頂くシチュエーションとしてはかなりイレギュラーなわけですから、カトラリーの選択もこのシチュエーションに合わせるべきではと思ったんですね。
それにカトラリーはグラス同様、食事の際にお客様が自ら手に取るもの。レストランの個性を感じとりやすいツールでもあるよな、と。
そこで調べたのが「日本最古の洋食器メーカー」です。
折角茶室でフレンチを楽しんでもらうのなら、日本に由来と歴史のあるカトラリーを使いたいなと店主は考えました。
その結果(紆余曲折ありつつ)行き着いたのがこちらのカトラリーだったのですが、手に入れた時は(とても大事に使われていた形跡はあるものの)結構なダメージを受けておりまして、そのままでは使えないと思い燕物産本社の方にコンタクトを取ったわけです。
その結果はご覧の通り、約100年前(大正後期〜昭和初期の型だそうです)の品とは思えないほど美しく研磨し直され、職人さんの高い技量を実感できる仕上がりとなりました。
上でも挙げた通り、今回の品のように手作業でナイフやフォークの表面に彫金できる職人さんはもう殆ど残っていないそうですし、これは大事に使わないといけないなと気を引き締めています。
また、この型のスープスプーンまでは手に入らなかったため、スープを出すことの多い当店としては「月桂樹」のスープスプーンを追加発注してもいいかなと考えております。
お客様の「ディナー行きたい!」というご要望にもなかなかお応えすることができず心苦しい限りなのですが、少しずつ環境を整えておりますのでもう少々お待ち頂ければ幸いです。
また、今週金曜日はこのディナーで提供した品をスポットメニューでも提供しようと考えております。
この情報は、この長文を読んで頂いたお客様へのせめてものお詫びのしるしということで…
それでは、また!
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